免疫系は、組織、細胞およびシグナル伝達分子のネットワークであり、正常細胞の損傷を最小限に抑えながら、異物細胞を識別し攻撃することにより、生体を保護するはたらきをしています1,2。自己(自身の正常細胞)と非自己(異常細胞または異物細胞)を区別するこの能力は、免疫応答の特徴です2,3。
免疫系が自己抗原を認識し、正常細胞の存在を受容する能力は自己寛容と呼ばれています2。自己寛容の破綻によって自己免疫反応が引き起こされると、免疫系は自己と非自己を識別できず、正常細胞を攻撃するようになります4。
自己免疫応答を防ぐため、免疫細胞は、成熟する過程(中枢性寛容)および末梢組織中を循環する過程(末梢性寛容)において、自己抗原を許容するようになります2。自己反応性のT細胞の大部分は発生の初期に排除されます。 しかし、成熟過程で遭遇しなかった自己抗原を認識することを防ぐため、末梢性寛容は残存します。 免疫チェックポイント経路による免疫抑制は、末梢性免疫寛容の機序の1つです2,5。
抗原や、低分子または免疫応答を誘導するペプチドは、自己と非自己を識別する上で重要な要素となります1。 抗原は、免疫系が自己と非自己とを区別するための標識として機能します1。不活性のT細胞は、抗原提示細胞(APC)上の主要組織適合複合体によって提示された抗原と一時的な結合を形成しながら、非自己抗原を探します6。 非自己抗原を認識すると、細胞傷害性T細胞は活性化します1。正常細胞に由来するものの、がん抗原は非自己として認識されます。がん抗原の一種であるネオアンチゲン(Neoantigen)は、正常な自己タンパク質から変異や修飾によって生じます。そのため、腫瘍に特有であり、免疫系による認識を受けたことが無いことになります3,7。
自然免疫応答は迅速ですが、獲得免疫応答はそれほど迅速ではありません。しかし、獲得免疫では、メモリーT細胞 を含む記憶細胞の形成により持続的な免疫応答がもたらされます1,8。非自己抗原への慢性的な曝露により、メモリーT細胞の蓄積が促進されます8。自然免疫と獲得免疫は、異なる機序または相補的な機序で活性化され、それぞれ異なるエフェクター細胞 によりがんのような異常細胞や外来細胞を攻撃して破壊します1。
生体防御の第一線である自然免疫は、非特異的で寿命が短く、抗原とは無関係に活性化され、外来の脅威の迅速な同定と排除が可能です1。マクロファージ、好中球、樹状細胞(DC)、肥満細胞、好塩基球、好酸球、ナチュラルキラー(NK)細胞 、T細胞等の多くの細胞が自然免疫応答に関与しています1。自然免疫応答の主要なエフェクター細胞であるNK細胞は、生体内を循環し、攻撃すべき異常な細胞がないか身体を絶えず監視しています1-3。
NK細胞は、活性化受容体の結合を介してがん細胞を認識すると増殖し、標的細胞を迅速に殺傷します3,4。がん細胞が死滅すると、NK細胞は他の標的を探して移動します3。がん細胞は、がん抗原およびその他の因子を放出しながら死んでいきます5-7。
NK細胞は非自己の侵入者を同定するとき、抗原に依存しません1。その代わりに、NK細胞は、正常細胞や異常細胞からの活性化シグナルおよび抑制シグナルと相互作用する受容体を発現します。これらのシグナルのバランスにより、NK細胞の挙動が決定付けられます8。正常細胞は、NK細胞上の抑制性受容体と結合することで自己を自己と認識させ、免疫攻撃からの攻撃を回避することができます9。対照的に、がん細胞は、正常細胞で一般的にはみられないリガンドを発現しています2,10。腫瘍リガンドの活性化シグナルが優勢になると、NK細胞の抗腫瘍免疫が活性化されます9,11。
獲得免疫は抗原依存的かつ抗原特異的であり、持続的な応答をもたらします1。がん細胞の死によって放出されたがん抗原は、自己タンパク質が変異または修飾されたことで生じたもの(ネオアンチゲン)で、より多くの体細胞突然変異を有する腫瘍(つまり、遺伝子変異量が多い)は、より多くのネオアンチゲンを生じる可能性があります12,13。腫瘍微小環境により多くのがん抗原が存在する場合、T細胞の活性を刺激する機会はより多くなります13,14。
獲得免疫応答の主要なエフェクター細胞である細胞傷害性T細胞は、リンパ節のような二次リンパ器官において、がん抗原を含む非自己抗原によって活性化されます1,15。一度活性化されると、細胞傷害性T細胞は増殖し、抗原のある場所へ遊走し、そこに浸潤し、直接、細胞を殺傷し始めます16。自然免疫応答と異なり、獲得免疫は迅速ではありませんが、メモリーT細胞を含むメモリー細胞による免疫応答によって持続します1,17。
がん細胞が死ぬことで、アデノシン三リン酸(ATP)や腫瘍のDNAのような特定の分子が放出され、樹状細胞等のAPCが活性化されます1,2。APCは、自然免疫応答と獲得免疫応答の間をつなぐメッセンジャーとして働きます3。
ATP等の炎症性シグナルは、APC内でインフラマソームの形成を誘導します1,2。インフラマソームはタンパク質複合体であり、炎症性サイトカインを不活性化状態から活性化状態に変換することで、炎症性免疫応答、自然免疫細胞の動員および応答を開始させます4。一度活性化されると、これらのサイトカインはAPCから放出され、NK細胞およびT細胞の抗腫瘍活性を増強します1,4,5。
腫瘍のDNAは、APCの内部にある特殊なセンサーで検出されます6。このセンサーにより、APCは刺激され、腫瘍細胞が死ぬときに放出されたタンパク質を取り込み、処理して抗原へプロセッシングします2,7,8。APCの主要な機能の1つは、これらの抗原を未成熟なT細胞に提示することです8。未成熟なT細胞に抗原が初めて提示されると、T細胞の活性化と増殖が起こります。この過程はT細胞プライミングとして知られ、これにより適応免疫応答が開始します8。
APCは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる細胞表面タンパク質を発現しており、この複合体により処理された抗原の断片がT細胞に提示されます3。未成熟なT細胞表面のT細胞レセプター(TCR)が、提示されたMHC抗原複合体を認識すると、細胞傷害性T細胞の活性化と増殖が促進されます3,9。
抗原を認識した活性化T細胞は、腫瘍環境へ遊走して浸潤します。腫瘍環境への浸潤に続いて、細胞傷害性T細胞 ががん細胞の死を誘発する分泌因子を放出します3。遺伝子変異の多寡が、細胞傷害性T細胞の浸潤と相関することを示唆するデータが蓄積されています10。免疫応答が終了すると、細胞傷害性T細胞は死滅するか、あるいは長期に持続するメモリーT細胞へ分化します11。メモリーT細胞は、同一の抗原を再度認識し、免疫応答を引き起こす能力を有しています3,12。
がん細胞を同定して排除するためには、細胞傷害性T細胞およびメモリーT細胞は、特異的な活性化抗原を探しながら末梢組織を監視しなければなりません1,2。活性化されたT細胞は様々な因子を増加させて、これらの細胞ががん抗原を認識し、血管壁に沿って腫瘍局所へ遊走することを可能にします3,4。T細胞は非リンパ組織を越え、眼や脳といったとりわけ特別な臓器や器官への遊走が起こることが証明されています5-11。
REFERENCES–がんに対する免疫応答の本質を明らかにする
REFERENCES–NK細胞は、自然免疫系の主要なエフェクター細胞です
REFERENCES–APCは自然免疫と獲得免疫の橋渡しの中心的な役割を担います
REFERENCES–活性化されたT細胞およびメモリーT細胞は、全身を監視してがん抗原を認識します