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総論

POINT

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、負の免疫制御を解除して腫瘍免疫を活性化させる薬剤であり、自己免疫疾患様の特有の免疫関連有害事象(irAE)が出現することがある1

POINT

irAEは全身で様々な種類の症状が出現し、その発現時期を予測することも難しく、時に適切な対応や対処の遅れが致命的となることがある1

POINT

irAEに対する管理は、従来のがん薬物療法の副作用とは異なる管理が必要であることを、がん治療医、及びがん治療医から相談される専門医ともに理解しておくことが大切である。

がんと薬物療法

がん薬物療法総論

がんの治療は、外科療法、放射線療法、薬物療法が基本となります。
薬物療法で用いられる抗がん薬には、殺細胞性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などがあります。
殺細胞性抗がん薬は、細胞分裂が活発であるがん細胞に作用して、殺細胞性作用を示しますが、造血細胞や毛髪などの細胞分裂が活発な正常細胞にも影響を及ぼすため、副作用を発症することがあります。
また、分子標的薬は、標的となる分子を発現している細胞にだけ作用します。このため、標的分子を発現していない正常細胞はあまり大きな影響を受けませんが、正常細胞ががん細胞と同じ標的分子を発現していると分子標的薬の作用を受ける可能性があり、副作用を発症することがあります2
そして、ICIによるがん免疫療法です。がん免疫療法とはがんに対する免疫応答に関わっている免疫システムの構成要素を標的とした治療を指します3。ICIは、免疫抑制シグナルを阻害し、がん細胞に対する免疫応答を高める薬です。そのため、自己の組織に対する免疫応答に関連した副作用(免疫関連有害事象:irAE)を発症することがあります2

図1:がん薬物療法総論

佐々木 康綱 他監修:薬がみえる vol.3 第1版 メディックメディアP.358、366-367、373、401、418-419より作成

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02:16

がんと免疫

がん免疫逃避機構

近年の急速な腫瘍免疫学研究の発展により、がん細胞が免疫細胞の攻撃から様々な方法で逃避する「がん免疫逃避機構」の存在が示唆されるようになりました。
その中心的役割を担っているのが、T細胞性免疫を抑制する2つの補助シグナル(免疫チェックポイント)であるCTLA-4経路とPD-1経路です。
貪食細胞の中でも抗原提示能が高い樹状細胞などの抗原提示細胞は、リンパ節に遊走してリンパ節内でT細胞にがん抗原を提示し、T細胞受容体を介してT細胞はがんを認識します。その際に、T細胞機能を決める免疫補助シグナルが必要です。促進型の免疫補助シグナルに関与するCD28と抗原提示細胞上のCD80/86が結合すると、T細胞が活性化します。一方、抑制型の免疫補助シグナルに関与するCTLA-4とCD80/86が結合すると、T細胞はがん抗原を認識しますが、がん細胞を攻撃できない状態となります。
また、PD-1経路は、主に末梢組織で働き、がん微小環境(標的細胞)への免疫抑制に関わっています。PD-1はそのリガンドであるPD-L1との相互作用を通じて抗原特異的T細胞のアポトーシスを促進します4。この相互作用によってがん細胞はT細胞の活性化を阻害することで生き延びています3

図2:がん免疫逃避機構

CTLA-4:cytotoxic T lymphocyte-associated protein-4
PD-1/L1: programmed cell death 1 / ligand 1

濵西 潤三 他:実験医学 増刊 vol.34 No.12 2016 P.132-135

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)

ICIの作用機序

近年、ICIは多数のがん種に対して適応の拡大が進んでおり、がんに対する標準的な治療の1つとなっています。
ICI療法は、がん抗原を認識して活性化されたT細胞に発現している免疫チェックポイント分子を抗体で阻害することによって、がん抗原特異的なT細胞の活性化を持続させることにより、がんを制御する治療です5
その一方で、免疫系が活性化されることによる炎症性の有害事象が発生します。この事象を指して、免疫関連有害事象(irAE)と呼びます3

図3:ICIの作用機序

濵西 潤三 他:実験医学 増刊 vol.34 No.12 2016 P.132-135
峯村 信嘉:免疫関連有害事象 irAEマネジメント 膠原病科医の視点から P.2、4-6

irAE

irAEが起こるメカニズム

irAE発現メカニズムは、4つの経路が提唱されており、これらが複合的に起きていると考えられています。
1つ目は自己反応性T細胞の活性化による細胞性免疫経路です。腫瘍傷害性T細胞の一部は、自己抗原との交差抗原に反応する場合があります。悪性黒色腫(メラノーマ)に対するICIの使用が引き起こす皮膚白斑はその代表例であり、悪性黒色腫関連抗原特異的なT細胞が、これらを発現する正常メラノサイトを傷害する結果引き起こされるirAEです。
2つ目は自己抗体産生による液性免疫経路です。CTLA-4、PD-1/PD-L1は細胞性免疫だけでなく液性免疫の免疫寛容にも関与しています。そのため、ICIの使用により甲状腺機能障害、重症筋無力症など、自己抗体が関与する多彩な自己免疫病態が発症することがあります。
3つ目は炎症性サイトカインの過剰産生による炎症経路であり、大腸炎や重篤な皮膚障害などが代表例です。しばしば致死的となり得るため、速やかな副腎皮質ステロイド薬、状況によってはインフリキシマブ*などの抗サイトカイン薬を投与を要します。
4つ目は抗体依存性のアレルギー経路です。抗CTLA-4抗体は下垂体前葉細胞に発現するCTLA-4に結合し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性と補体依存性のⅡ型アレルギー機序によって下垂体炎を引き起こすことが知られています6

図4:irAEのメカニズム

*インフリキシマブの【効能又は効果】は、「●既存治療で効果不十分な次の疾患;関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)、ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、強直性脊椎炎、腸管型ベーチェット病、神経型ベーチェット病、血管型ベーチェット病、川崎病の急性期 ●次のいずれかの状態を示すクローン病の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る);中等度から重度の活動期にある患者、外瘻を有する患者 ●中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)」です。

山下 万貴子 医学のあゆみ Vol.276 No.8 2021 P.756-759
Postow MA et al. N Engl J Med 2018;378:158-168.
久保 輝文 他:実験医学 増刊 Vol.37 No.15 P.247-252より作成

irAEの標的臓器

irAEは理論上、全身のどこにでも生じる可能性があります。皮膚、消化管、肝臓、肺、内分泌器に比較的多く生じることが知られているほか、腎臓や神経、筋、眼などにも生じ得ることが報告されています1
irAEの可能性は多岐にわたるため、臨床分野を超えた協力的な管理が必要です7

図5:irAEの標的臓器

Postow MA et al. N Engl J Med 2018;378:158-168.
日本臨床腫瘍学会 編:がん免疫療法ガイドライン 第2版 金原出版 P.22-23より作成

irAEの病型

irAEの病型分類

この表はクリーブランドクリニックのカラブリスによって提唱されたirAEの病型分類を示しています。
irAEの病型分類で最多のパターンはType 1であり、ICI中止またはステロイド治療により大部分が軽快するものの、25%のステロイド抵抗性irAEに対してステロイド以外の免疫抑制薬(インフリキシマブ*またはミコフェノール酸モフェチル**)を必要としたとされています。
Type 2では、特徴的な自己抗体の存在がしばしば認められ、ICI療法が基礎となる自己免疫疾患の引き金になると考えられています。そのため、従来の(特発性)自己免疫疾患との区別は困難です。
Type 3は炎症が慢性に経過し、このパターンで最多のものは持続的で非特異的な炎症性関節炎です。慢性または再発性の大腸炎、肺臓炎、皮膚障害の報告もありますが、これらはあまり多くないとされています3

表1:irAEの病型分類

*インフリキシマブの【効能又は効果】は、「●既存治療で効果不十分な次の疾患;関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)、ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、強直性脊椎炎、腸管型ベーチェット病、神経型ベーチェット病、血管型ベーチェット病、川崎病の急性期 ●次のいずれかの状態を示すクローン病の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る);中等度から重度の活動期にある患者、外瘻を有する患者 ●中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)」です。

**ミコフェノール酸モフェチルの【効能又は効果】は、「●腎移植後の難治性拒絶反応の治療(既存の治療薬が無効又は副作用等のため投与できず、難治性拒絶反応と診断された場合) ●次の臓器移植における拒絶反応の抑制;腎移植、心移植、肝移植、肺移植、膵移植 ・ループス腎炎」です。

峯村 信嘉:免疫関連有害事象 irAEマネジメント 膠原病科医の視点から P.37-38
Calabrese L et al. Ann Rheum Dis 2020;79:309-311.より作成

監修医の
コメント

治療方針決定においてType 2は少なく、Type 1、すなわち一過性炎症が大部分の病型である事実をがん治療医も専門医も理解しておくことが大切です。

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01:33

irAEと対応

治療の基本的な柱

irAEによって治療を継続できない症例もあり、がん治療医やその他の専門医の臨床での課題となっています。そもそもirAEの治療法における質の高いエビデンスと呼ぶべき前向きの臨床試験は存在せず、実際の臨床現場で行われているirAE治療は必ずしも均一でないのが現状です。
ほぼ共通してirAE治療の柱とみなされるのは図6に示す要素です3

図6:治療の基本的な柱

Baraibar I et al. Drug Safety 2019;42:281-294.
峯村 信嘉:免疫関連有害事象 irAEマネジメント 膠原病科医の視点から P.39より作成

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01:27

スクリーニング検査の例

スクリーニング検査はベースライン設定のために行います。
ベースライン検査はirAE発症時の鑑別診断において、異常値の比較検討のために有用です。過剰とならない程度に幅広く検査をしておくことにベースラインとしての意義があるとされています10

表2:スクリーニング検査の例

倉田 宝保 他 編集:免疫チェックポイント阻害薬 実践ガイドブック メジカルビュー社 P.8より一部改変

監修医の
コメント

上記に加え、①身長、体重、BMI ②自己免疫疾患などの既往歴 ③一般健康状態(食欲、便の回数 etc) ④トロポニン ⑤CK値 ⑥結核スクリーニング検査 ⑦肝炎スクリーニング検査も確認することを推奨します。

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01:20

症状からのフローチャート

患者の主訴からirAEを導くフローチャートの例として倦怠感、嘔気について示しています。
irAEは初回投与すぐ、長期投与中など予期せぬ時に発現することがしばしばあります。そのような時に患者の訴える症状から診察、検査を行いirAEか否か判断し、迅速に対応しなければなりません。
倦怠感、嘔気を例にとっても、スライドに示したように多くのirAEが疑われます。様々な可能性があることを念頭に置いて、合併して現れる他の症状とあわせて診断することが重要です10

図7:症状からのフローチャート

倉田 宝保 他 編集:免疫チェックポイント阻害薬 実践ガイドブック メジカルビュー社 P.41、43-44より作成

再生時間
02:08

チーム医療の取り組み

ICI治療は、従来の殺細胞性抗がん薬や分子標的薬とは副作用プロファイルや発症機序が異なり、また、発症予測ができない場合もあるため、治療の開始前から治療中、治療終了後も注意して患者のフォローアップが必要となります。
ICI治療では、その治療を担う診療科とirAEに関わる診療科、医療スタッフ、その他の職種などとの連携が不可欠となります。その施設ごとに「患者を中心に考えた」より良い体制が構築されることが望まれます11

図8:チーム医療の取り組み

MSW:medical social worker
各務 博 監修:チームで取り組む 免疫チェックポイント阻害薬治療 中外医学社 P.77-78

再生時間
01:50

監修

峯村 信嘉 先生[三井記念病院 総合内科 科長]

参考資料

  • 日本臨床腫瘍学会 編:がん免疫療法ガイドライン 第2版 金原出版 P.22、23、36-38

  • 佐々木 康綱 他監修:薬がみえる vol.3 第1版 メディックメディア P.358、366-367、373、401、418-419、422

  • 峯村 信嘉:免疫関連有害事象 irAEマネジメント 膠原病科医の視点から P.2、4-6、17、33、37-39、49、141、147、225-226

  • 濵西 潤三 他:実験医学 増刊 vol.34 No.12 2016 P.132-135

  • 医学のあゆみ vol.276 No.8 2021 P.755-760

  • 久保 輝文 他:実験医学 増刊 Vol.37 No.15 P.247-252.

  • Postow MA et al. N Engl J Med 2018;378:158-168.

  • Calabrese L et al. Ann Rheum Dis 2020;79:309-311.

  • Baraibar I et al. Drug Safety 2019;42:281-294.

  • 倉田 宝保 他 編集:免疫チェックポイント阻害薬 実践ガイドブック メジカルビュー社 P.8、41、43-44

  • 各務 博 監修:チームで取り組む 免疫チェックポイント阻害薬治療 中外医学社 P.77-78

  • 岡元るみ子 他 編集:がん化学療法副作用対策ハンドブック 第3版 P.48、94-97

  • 重篤副作用疾患別対応マニュアル 重度の下痢 P.13

  • Bai et al. Clin Cancer Res 2021;27:5993-6000.

  • M Porcu et al Cancres Basel 2019;11:305.

  • H Dearden et al. Eur J Cancer 2021;153:168-178.

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