POINT
ICI関連腎障害の発現頻度は2%前後であるが1) 、 重症化すると回復不能なまでに腎機能が低下し、永続的な透析が必要となるおそれがあるため、迅速な対応が必要である。3)
POINT
ICI関連腎障害の治療の柱はステロイド治療である。2)
薬剤性腎障害の中で、急速に腎機能が低下する場合、すなわち血清クレアチニン値の48時間以内に0.3mg/dL以上の上昇、7日以内に基礎値から1.5倍上昇、または6時間以上にわたる尿量低下が起こる場合はAKIと診断されます。7)
AKIはその原因により、腎前性(循環の問題)、腎性(腎臓そのものの問題)、腎後性(尿路の問題)に分類されます。5)AKIは多様な病態を有し、常に原因の鑑別と可逆的因子を除くことが求められます。7)薬剤性腎障害と関連するAKIは、腎性AKIが多いとされ5)、抗がん薬によるAKIもここに含まれます。
図1:AKIの分類
AKI:acute kidney injury(急性腎障害)
杉本 俊郎 編集:月刊薬事 2021年7月増刊号(vol.63 No.10)P.161
安田 隆 監修:病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版 メディックメディア P.207
2012年に、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)がこれまでのエビデンスをまとめたAKI診療ガイドラインを発表しました。7)さらに、2004年に発表されたRIFLE基準、2007年に発表されたRIFLE基準の修正版に当たるAKIN基準を統合したKDIGO基準を提唱しました。7)
KDIGOによるAKI診療ガイドラインでは、血清クレアチニン値の48時間以内の0.3mg/dL以上の上昇、または7日以内での基礎値から1.5倍上昇、または6時間以上にわたる尿量低下(0.5mL/kg/時以下)のうち、いずれか1つを満たせばAKIと診断するとされています。6)KDIGO診断基準を用いることを日本でのAKI診療ガイドラインでも推奨していますが、KDIGO診断基準は血清クレアチニン値及び尿量に基づいており、腎障害の原因や障害部位、発症場所や発症様式などは問われていません。7)
sCr:血清クレアチニン
がん薬物治療によって起こった有害事象は、有害事象共通用語規準、いわゆるCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) によって判定されています。
血清クレアチニン(sCr)の上昇を認めた場合、CTCAEでの「クレアチニン増加」、「急性腎障害」のGradeを決定します。3)
表1:CTCAEによる重症度分類
ULN:(施設)基準範囲上限
有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版
ICI関連急性腎障害(ICI-AKI)出現のリスク因子として①ベースラインのeGFRが低値、②プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与、③抗CTLA-4抗体薬と抗PD-1/PD-L1抗体薬の併用療法の関与が示唆されています。9)
同報告において、ベースラインeGFR中央値はICI-AKI群で低く、PPIの投与を受けている患者とICIの併用療法を受けている患者の割合はICI-AKI群で有意に高いという結果になりました。9)
図2:ICI関連急性腎障害のリスク因子
Cortazar F et al. J Am Soc Nephrol 2020;31:435-446.より作成
ICI投与開始からICI関連急性腎障害(ICI-AKI)発症までの期間は14週(中央値)でした。また、ICI最終投与からICI-AKI発症までの期間は2週間(中央値)でした。9)
ICI-AKIの重症度(KDIGO)は、Stage 2が43%、Stage 3が57%でした。腎代替療法は9%に行われました。10)
ICI-AKIの発症前または同時期に、腎外irAEが43%の症例にみられました。主なものは、皮疹、肝炎、甲状腺機能障害、大腸炎、肺臓炎などでした。10)
表2:ICI関連腎障害の臨床的特徴
RRT:renal replacement therapy(腎代替療法)
Cortazar F et al. J Am Soc Nephrol 2020;31:435-446.
ICI-AKIの原因としては、急性尿細管間質性腎炎(ATIN)が多いとされています。3)
抗原提示細胞のCD80/86がT細胞のCTLA-4と結合すると免疫不応答を引き起こします。11)
また、PD-L1は、多くのネイティブ細胞や腫瘍細胞で多様に発現しています。PD-L1はT細胞のPD-1に結合することで、T細胞の活性化を抑制し機能不全状態に陥らせる免疫寛容が働いています。9)
ICIによって、末梢で活性化されたT細胞が、腎臓においてICI、その他の薬物またはその代謝物が抗原となり、腎臓に炎症を引き起こします。また、ICIによって腎臓の自己抗原に対する免疫寛容が破綻することで腎障害を発症する可能性も示唆されています。
図3:急性尿細管間質性腎炎のメカニズム
R Shingarev et al. Am J Kidney Dis 2019;74:529-537.
腎障害の初期は無症状の場合が多いため、月に1度は定期的にICI投与前に症状、血清Cr、BUN、電解質など検査一般・尿沈渣、及び腎尿路の状態をチェックします。3)
腎機能低下の程度が軽微であれば無症状ですが、進行すると様々な症状が現れます。3)電解質異常を起こすと、意識障害、倦怠感、心電図異常などをきたし、水分調節障害では浮腫、体重増加、尿量減少などが、老廃物の貯留では倦怠感や悪心・嘔吐などが現れます。3)
浮腫、体重増加、尿量減少、全身倦怠感などのAKIを疑う症状が出た場合には、必ず連絡するように患者・家族に周知しておく必要があります。3)
図4:腎障害の症状・所見
倉田 宝保 他 編集:免疫チェックポイント阻害薬 実践ガイドブック メジカルビュー社 P.147、151-152より作成
大多数の患者では、血清クレアチニン(sCr)上昇及び白血球尿の存在が、irAE腎炎を疑う手掛かりとなります。2)sCrの上昇がみられたら、随時尿検査、尿定性・沈渣、腹部エコー・CTなど検査を追加するとともに、早めに腎臓専門医に相談することを検討します。3)
表3:腎障害の臨床的特徴
峯村 信嘉:免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から P.427
腎障害時の追加検査としては、尿定性・尿沈渣検査で蛋白尿の有無、円柱の出現などの評価を行い、尿細管障害マーカー検査で尿中NAG、β2-ミクログロブリンの上昇の確認などを行います。3)また、画像検査として、胸部X線写真などで肺うっ血の有無の確認、腹部エコーや腹部CTで腎腫大の有無の確認などが行われます。3)
腎障害時の鑑別すべき疾患と検査項目として、ICI以外の薬剤による腎障害かどうかを鑑別するために薬剤、造影剤などの使用歴を聴取します。10)また、感染症や原疾患進行による腎機能の増悪、電解質や代謝異常などを調べるための検査も随時施行されます。10)
表4:腎障害の追加検査と検査項目
NAG:N-acetyl-β-D-glucosaminidase
白井 小百合 監修:病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版 メディックメディア P.29
倉田 宝保 他 編集:免疫チェックポイント阻害薬 実践ガイドブック メジカルビュー社 P.148
中西 洋一:対応の流れと治療のポイントがわかる フローチャート抗がん薬副作用 P.231を一部改変
治療アルゴリズムについては、急性腎障害の重症度分類であるKDIGO分類に基づいたものとCTCAEに基づいたものがありますが、ここではCTCAEのGrade別に対応を表しています。
Grade 2-4ではICIの投与は中止し、他の原因を調べて否定されれば、Grade別にプレドニゾロンの静注またはその等価量の副腎皮質ステロイド薬(経口または静注)を投与します。1)
図5:腎障害の治療アルゴリズム
有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版
日本臨床腫瘍学会 編:がん免疫療法ガイドライン 第2版 金原出版 P.41より作成
監修
桒原 孝成 先生[熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学 准教授]
参考資料