免疫系は自己と非自己を識別し、非自己を排除する生体防御システムです。生体は、この免疫系が自己の細胞・抗原を攻撃しないようにするための免疫抑制機構も備えており、免疫系の過剰な活性化を抑制機構が適切に抑えることによって恒常性が維持されています。それでは免疫系は、自己の変異細胞であるがん細胞に対してどのようにはたらくのでしょうか。
1950年代、異物(非自己)を排除する免疫系は、自己の変異細胞であるがん細胞も排除して生体を防御するという「がん免疫監視説(cancer immunosurveillance)」の概念が提唱されました1。 しかし、がん免疫監視機構が存在するにもかかわらず、がん細胞は増殖し、がんが発生します。この点を経時的に説明し、発展させた概念がSchreiber らによって提唱された「がん免疫編集説(cancer immunoediting)」です2。
がん免疫編集説の概念によれば、発がんにおける免疫系とがんの関わりは「排除相」「平衡相」「逃避相」とよばれる3 相に分けられます。
最初に生体にあらわれた変異細胞(がん細胞)は免疫原性が高いため、免疫系は異物だと判断し、免疫担当細胞が攻撃することによって排除されます(排除相)。しかし免疫原性の低いがん細胞は免疫担当細胞からの攻撃にさらされないため、排除されることなく長期にわたって選択的に生存し(平衡相)、最終的には免疫抑制機構を獲得することにより免疫監視から逃避して増殖することで進行し、臨床的がんになります(逃避相)。
文献3より作成
臨床でみつかる「がん」は、既に排除相、平衡相を経て逃避相の段階にあるといえます。
REFERENCES