私たちの体では、日々がん細胞が生まれている一方、これらのがん細胞が効果的に排除されています(排除相)。排除相でみられるようながん細胞に対する免疫応答の誘導はCancer-Immunity Cycle(がん免疫サイクル)とよばれる7つのステップで構成されます。
がん細胞が死滅するとがん抗原が放出されます。これが最初のステップです。がん抗原は、発現形式により腫瘍特異抗原(Tumor-specific antigens:TSA)と腫瘍関連抗原(Tumor-associated antigens:TAA)に分類されます。TAAは多くのがん患者で共通して発現がみられます。
TSA:がん細胞のみに発現しており、発がん性ウイルス抗原やがん細胞の遺伝的不安定性により生じた遺伝子変異に由来する抗原(neo-antigens)などの外来抗原。
TAA:分化抗原やがん細胞で高発現している自己抗原で、がん細胞にも正常細胞にも発現している自己由来抗原。
文献1より作成
放出されたがん抗原は樹状細胞などの抗原提示細胞に貪食されます。がん抗原を貪食した抗原提示細胞はリンパ管を経由してリンパ節へ移動し、主要組織適合遺伝子複合体(Major histocompatibility complex:MHC)クラスⅠ分子およびⅡ分子の上にがん抗原の断片(ペプチド)を載せ、T細胞に提示します。
文献2より作成
T細胞はMHC分子の上に提示されたがん抗原ペプチドを、T細胞受容体(T-cell receptor:TCR)を介して認識し、活性化します。
ただしT細胞の活性化には、MHC分子と抗原の複合体と、TCRによる抗原(主刺激)シグナルのみでは不十分で、T細胞上に発現しているCD28と、抗原提示細胞上に発現しているB7(CD80/CD86)などの分子を介した共刺激シグナルも必要となります。これら2つのシグナルがともに提供されることによって、T細胞は活性化します。
文献2より作成
活性化したT細胞は、がん組織に向かって血管内を移動します(遊走)。そして血管から出ると、T細胞はがん組織に向かって浸潤します。
文献1より作成
がん細胞も自身のがん抗原ペプチドをMHC分子上に提示しており、T細胞はこのがん抗原ペプチドとMHCの複合体をTCRを介して認識します。
そして、がん抗原を認識したT細胞は、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘導するなどして、がん細胞を攻撃・排除します。
文献1より作成
死滅したがん細胞はがん抗原をさらに放出します。ここから最初のステップ(がん抗原の放出)に戻ることで、がん細胞を排除するサイクルが再び回り始めます。
Cancer-Immunity Cycleのしくみは、このようにしてがん細胞を排除するように機能しています。
文献1より作成
REFERENCES